筆者:伊原久美子(スポーツ科学部教授)
1.「自然」が教えてくれること
野外活動は、「自然」を活用した活動です。たとえば、沢の急流を上流に向かって登るシャワークライミング、地図とコンパスを使って複雑な山中のポイントを探すロゲイニング、風や波を読みながらセイルや舵を操作するヨットなど、どれも自然がもたらす環境(地形、水流、風、波、天候など)を活かしているのが特徴です。
これらの自然環境は、時として非常に厳しい状況を私たちに突きつけます。たとえば、強い水の流れに押し戻されて前に進めなくなったり、視界が悪く山中で迷ったり、強風でヨットが転覆したり、豪雨でテントが浸水することもあります。このような危機的な状況においては、事前に予測して備える力や、状況に応じて柔軟に対応する力が必要です。
人が設定した課題であれば、解決できなくてもやり直しができ、命の危険にさらされることはほとんどありません。しかし、自然が与える課題はリセットが効かず、時には命を脅かすこともあります。自然の課題は絶対的であり、誰かに文句を言うこともできません。私たちは、その状況を受け入れざるを得ないのです。自然の前では、能力の違う人間同士が力を合わせて困難を乗り越えなければなりません。これが「野外教育」の本質です。自然そのものが私たちの先生であり、人としての生き方や在り方を教えてくれるのです。
2.スポーツと野外教育
近年、スポーツの現場ではチームビルディングを目的に野外教育が活用されることが増えています。日本代表チームやプロチームなどが行うこの取り組みは、チーム全体のコミュニケーション能力の向上や、リーダーシップの強化、関係性の構築、課題解決能力の向上を図り、最終的にチーム力の向上につながっています。
本学でも野外教育を重視しています。この夏、私たちスポーツ科学部では「キャンプ実習」と「海洋スポーツキャンプ実習」という2つの野外活動実習を実施しました。「キャンプ実習」では、テント泊や野外炊事を基本に、ツリークライミング、課題解決アクティビティ(ASE)、ロゲイニング、シャワークライミング、登山などを行いました。「海洋スポーツキャンプ実習」では、カヤック、ヨット、ウィンドサーフィン、サップ、釣り、シュノーケリングなどのプログラムを実施しました。いずれも3泊4日の日程で行われ、普段接点のない学生同士で班を組むため、慣れない人間関係や自然環境の中で、自分自身を試し、学ぶ機会となっています。
自然の厳しさは、時に私たちの限界を試します。しかし、そうした挑戦こそが、仲間との絆を深め、自己成長のきっかけとなります。野外教育は、私たちに生きる知恵と勇気を教えてくれる場です。ぜひ、この特別な体験を通じて、今の自分を超えていく喜びを感じてください。
【参考記事】
2024年度キャンプ実習
2024年度海洋スポーツキャンプ実習
BACK
社会貢献・附置施設
BACK