大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」RELAY COLUMN

スポーツ科学部

2024.08.13

胸で宙返り?!

筆者:藤原敏行(スポーツ科学部教授)

 「ガンバ! Fly high」という体操漫画で、腰ではなく胸を中心に回転すると高い宙返りができるという話があります。それに関連して、インターネット上で「宙返りで胸を軸に回転したいが、うまくいかない」という投稿を見かけました。皆さんはどのように思われるでしょうか?

©森末慎二・菊田洋之/小学館

 高校までの体育では宙返りを学ぶ機会はほとんどないかもしれません。しかし、宙返りをしたことがなくても、スポーツ科学を学ぶと、「胸で宙返りをする」という意味が理解できるようになります。

1.重心が回転の中心!

 物体が空中で回転する際には、「重心」を中心に回転します。つまり、宙返りをする人の身体は、本当は腰でも胸でもなく、重心を中心に回転します。重心とは、体の各部分の質量がすべて集中しているとみなせる理論的な点のことです。頭や腕や脚など、それぞれの部分の質量と、それらの位置によって重心の位置は決まります。直立姿勢で、重心位置はおへその少し下あたりになりますが、脚を曲げて頭側に寄せると、脚の質量が移動する分、重心は胸の方へ移動します。




 つまり、「胸で宙返り」とは、脚をしっかり曲げて抱え込むことで、重心が腰近くから胸の方へ移動し、「胸を中心に回転しているように見える宙返り」のことです。胸を中心に回転しようと強い思いをもって実施しても、それだけではうまくいきません。股関節と膝を深く曲げて、身体を小さく抱え込むという具体的な動作が必要です。




 空中で重心の高さが上がると誤解してはいけません。空中に跳び上がった後は、重心の通る軌道は変わりません。空中で何をしても、放物線の軌跡を描きます。身体を小さく折りたたむことで、重心が相対的に胸側に寄ることは間違いありませんが、地面からの絶対的な高さは変わらないのです。

(金子・藤原「スポーツ・バイオメカニクス入門」)



2.スポーツ科学の価値と楽しさ

 理屈がわかっても、すぐにその運動ができるとは限らないですよね。「胸で宙返り」をするためには、短い時間で大きく動くための素早い動作が必要ですし、そのためのパワー、いわゆる瞬発力も必要です。しかし、理論を理解することは、多くの場合において、より効果的で安全な実践に役立ち、成功への近道となります。

 大学でスポーツ科学を学ぶと、スポーツについて考える視野がきっと広がります。きっと、新しい疑問や興味が次々と湧いてくるでしょう。それが学問や研究を深める楽しみでもあります。体育やスポーツに興味のあるみなさん、大阪体育大学で「「わかる喜び」、そして実際に「できるようになる喜び」を体験しませんか。

 

キーワード
  • 体操
  • バイオメカニクス
  • 回転
  • 重心

藤原敏行(スポーツ科学部教授)

専門はスポーツバイオメカニクスと体操競技のコーチング。男子体操競技部の監督として競技力向上に尽力しつつ、現場に近い科学的研究活動を行う。主な担当科目は「スポーツバイオメカニクス」「器械運動」など。

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