豊田スタジアムでの初戦ウェールズ戦を黒星でスタートさせたジョージア代表は次の試合会場となる埼玉県・熊谷市へと移動。
今回のジョージアの旅程上ではこの熊谷が一番タフになると最初から想定しており、日本人スタッフにも予め、この名古屋ー熊谷ー大阪の5日間が体力的にも精神的にも1番しんどくなる事を伝えていた。
ハイライトは9月29日(日)のウルグアイ戦が行われる日だ。通常のゲームデーだけでも大変なのに、この日は試合直後に試合会場を出発し、新幹線を東京駅で乗り換えて大阪まで行かなければいけないのだ。到着は22:30を想定しており、間違いなく皆がヘトヘトになる1日になるのは間違いないと考えていた。
さらにヘトヘトになる要素としてロジスティック的な部分も絡んでくる。9月25日に名古屋で積んだ10トントラック満載の荷物を同じ日に熊谷で荷解きとセッティングをし、わずか3日後の9月28日の夜には再び積込み、そして移動到着後の大阪で再び荷解きとセッティングをその日の晩のうちにするというフィジカル的には相当タフだ。良いダイエットになるのは間違いない(笑)。
目指すは全てが完了した大阪で飲むキンキンに冷えたハイネケンだ。
1人で名古屋から熊谷に移動をするのであれば、そりゃもう全然問題ないだろう。ところが1人と51人を引き連れて移動するのでは全くワケが違う。もちろん各新幹線の駅では旅行会社さんのバックアップが付くのだが、これにもコミュニケーションと連携が必要だ。認識をしないといけないのは全ての人が“ラグビーチームの移動“に慣れているワケではないのだ。チームとしての方向性をしっかりと彼らにも伝えないといけない。
それは例えば「私の指示がない限りは後ろを振り返らずとにかくチームの先頭で次のホーム、又はバスまで引っ張ってください」とか明確に指示を出す必要がある。
ジョージア代表のヘッドコーチのミルトン・ヘイグ(現サントリーサンゴリアス・ヘッドコーチ)はニュージーランド人で、私とは非常に相性が良くと感度が近い人だ。彼は細かい部分を気にする人で些細な事を気にする。私も今の大阪体育大学ラグビーでは学生たちに細かい部分を常に気に掛けるように言い続けている。ミルトンはジョージア人達が国民性もあり、気が緩んでしまうと詳細に対して疎かにする部分があることに関しては非常にフラストレーションがあったのは見ていて分かった。
移動でもミルトンは「信頼をしている私の背中を常に見て動きたい」とのリクエストがあった。その言い方がちょっと嬉しい言い方というのも指揮官としての人を使い方なのだと勉強になった。そして目的は常にスムーズにストレスの無い移動を心がけるという事だった。ミルトンはイライラするとすぐに顔や発言に表れるのですぐに分かるのが逆にありがたかった。
中には怒ってプンプンしてばっかりのヘッドコーチも世の中には大勢いるだろう。ただ理解しなければいけないのは怒ってばかりでしかめっ面をしていても人は付いてこないという事だ。
東京駅での乗換はわずか11分しかなく、これを51人を引き連れて多くの人が行き交う日本の交通の要所である東京駅で実行しなければならない。旅行会社のサポートが付いてくれるのは本当に心強いが自分の中では「イレブン・ミニッツチャレンジ」と名付けて心を引き締めて実行し、何とか無事に予定をしていた新幹線に乗ることが出来、予定通りに熊谷駅に到着することが出来た。
熊谷は「日本一暑い街」として名高いが、今回のラグビーワールドカップでのラグビー熱も非常に熱かった。サポートを担当された埼玉県や熊谷市のスタッフの方々のサポートも厚く、色々と良くして頂いた。さすが西の花園、東の熊谷と呼ばれているだけある。
そして何よりも熊谷ラグビー場はワールドカップへの改築を経て劇的な変化を遂げ、日本に存在するラグビースタジアムの中でもナンバー1なのではないかと思う。
ラグビー専用のスタジアムであることだけではなく、客席からのラグビーの見やすさ、そして選手が使用するロッカールームや浴槽等も含めての動線が本当に申し分ない使用しやすいスタジアムとなっているところは、本当に素晴らしいラグビースタジアムを作ってくれたと感じた。
熊谷には試合日も含めて4日間しか滞在しなかったので、あっという間にウルグアイとの2戦目の試合日がやってきた。ホテルでの最後のチームミーティングを終え、バスに乗り込みスタジアムに移動している道中で、スタジアムに向かうたくさんのお客さん、そしてそのお客さんをサポートするボランティアの方々をたくさん見かけた。今までの日本では本当に見られなかったような光景で、こんなにたくさんの皆さんがラグビーに関わっているということを考えると自然に感情がこみ上げて来て嬉し涙が出そうになったのを今でも覚えている。
ウルグアイとの試合の日はとにかく本当に暑かった。コーチボックスにいたコーチ達も汗だくになりながら試合の動向を見守っていた。ウルグアイは自分にとっては思い入れのある特別な相手だ。2017年、自分が20歳以下日本代表のチームマネージャーを務めていた際に行われたワールドトロフィでウルグアイに1ヶ月近く滞在したからだ。その時にはウルグアイラグビー協会の方々には本当にお世話になったのを心から感謝している。
この日、ジョージアのコーチングボックス付近のVIPエリアにウルグアイラグビー協会の方々とその当時のウルグアイラグビー協会会長のセバスチャンもおり、向こうから気付いてくれ熱い抱擁をしてくれた(笑)でも、このようなワールドカップという舞台であの時の感謝を改めて伝えることが出来て本当に良かったと思っている。
試合の方は暑い中でラグビー発展国の2国が熱い試合を展開。ウルグアイは前戦でフィジーに勝利して番狂わせを演じており勢いに乗っている危険な相手だった。その中でジョージアは持ち前のフィジカルの強さを発揮して前に出るラグビーを展開する。前半こそ12-7と接戦だったが、持ち前のスクラムやフィジカルの部分で試合を優位に進めたジョージアが33-7で勝利し、まずは1勝目を挙げることが出来た。
たくさんの知っている関係者の皆さんとの再会もつかの間、すぐに大阪に向けて出発する準備を整える。試合で使用した荷物をトラックに積込み、汗だくの服を着替えてすぐにバスに乗り込む。ところが熊谷の駅前はまだ観戦を終えたばかりの気持ちが高ぶっている観客の皆さんがたくさんおり、バスが到着するとバス付近にファンの方々が群がって来た。もちろんこの時間に移動をするということはこのような混乱になるのはある程度は予想していたのだが、それでもファンの方々の熱は非常にすごいものがあった。さらに勝ったもんだから尚更だ。
何とか新幹線に乗り込み、ジョージア代表は次の試合が行われる拠点となる大阪へ。東京での乗換も問題なく完了し、新大阪へ向かう新幹線に乗った時には本当にホッとしたのを覚えている。結局、新大阪に到着後にバスに乗り込み、ホテルに着いたのが23時近くだった。そしてそこからお待ちかねの10トントラックから荷降ろしをして終わったらもう次の日になっていた。
終了後は日本人のスタッフで集まってささやかなお疲れ様会。熊谷ラグビー場でゲットしたキンキンに冷えたハイネケンをゴクゴクと飲み干した。まぁそれはこの大会期間中に飲んだビールの中で一番美味しかったビールの一つであるのは間違いない。こうしてジョージア代表で最も忙しい4日間が終了した。リエゾンチームを率いる自分としては、一つのヤマは越えたと思っていた。後はチームにさらに勝ち続けてもらうためにひたすら良い環境を与え続ける、ただそれだけだ。
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