2018年11月17(土)、U-コミュニティホテル2F会議室にて、『女性アスリート心理サポートカフェ vol.6「ハイパフォーマンス女性パラアスリートとコーチの関わり~コーチングを通して見えてくるメンタル強化の秘訣~」』が開催されました。
女性アスリートが抱える課題には大きく分けて身体・生理的な課題、心理・社会的な課題、組織・環境的な課題の3つがあります。
司会を務めた實宝希祥コーディネーター
本学はその中でも心理・社会的な課題に焦点を当て「女性アスリートに対する心理サポートプログラムの開発」に取り組んでおり、女性アスリートが抱える課題を明確にし、そこから導き出される実践プログラムの開発を目指しています。
今回の女性アスリート心理サポートカフェは、本事業のプロジェクトコーディネーターを務める實宝 希祥 氏と、ITC靭テニスセンター/ITCうつぼテニススクールの松本 賢次 コーチの対談形式で進行されました。
本学の学部・大学院卒業生である松本コーチが指導者の道を歩み始めたのは大学学部時代に知り合いからうつぼテニスセンターでコーチをしてほしいと頼まれたことがきっかけでした。その約1年後、車いすテニス協会から強化練習会があると連絡を受けメニューを組んだところ、非常に好評。それまでの内容は基礎的な内容のものばかりでしたが「強化練習」という言葉から連想し、松本コーチ自身の発想により実戦的なメニューを組んだことが新鮮に映ったようです。当時の松本コーチには車いすテニスに関する知識が全くなかったため、自ら車いすに乗りどこまでスピードを出したら転倒するか、1人で車いすに乗って何度も確かめるところからパラアスリートの指導者人生がスタートしました。本学学部を卒業後、本学大学院博士前期過程を修了。その後、日本車いすテニス協会エリアコーチ、日本体育協会公認コーチとして、2012年から女子車いすテニスのトップ選手の指導をされています。
松本賢次コーチ・本学卒業生
松本コーチが女性アスリートを指導する際に心掛けていることはいくつもあります。「言葉を『確実』に『丁寧』に話をすることと、『お前』などの言葉は使わずきちんと名前で呼ぶようにしています。言葉遣いはホントに気を遣ってます。今、こういうこと言ったら怒るだろうなという時は提案型に変えるとか。試合後、本部に選手自身が報告に行かないといけないのに、ファンや関係者と喋っている時でも『早く行け』と言うのではなく『早く行った方がいいんじゃないの?』というように言ったり」
試合中でも選手に寄り添うようにしています。「競技をしていて思うのは、テニスは試合中にコーチがアドバイスをしてはいけないんですが、海外のコーチを見ていると競技中も選手に声をかけたり、応援したりしています。『ここ1本、頑張れ』という声かけだけでも選手はパフォーマンスが上がったりする。でも日本人のコーチ陣を見ていると静観していることが目に付くので、もっと声を出した方がいいんじゃないかな」とコーチの役割に対する考え方を話しました。
本事業において女性アスリートの心理状態を調査したところ、国内大会出場レベルの選手よりも、国際大会出場レベルの選手の方がネガティブな感情を抱いていることがわかっています。このことについて松本コーチは「多分に含んでいるとは思いますね。試合の中で『ここを取らないといけない』ということが怒りになったり、ランキング下位の選手と当たる時に、不安な気持ちになったりというのはかなりあると思いますね」と現場の視点からも同感されました。またパラスポーツ特有な事例について、「(相手が)痙攣などして明らかにプレーに悪影響が出てる時は、同情ではないと思うんですけど、どうしても攻めきれない部分が出て調子が悪くなってしまうこともあります」と選手の心理面について述べました。
實宝コーディネーターと松本コーチの対談の様子
また国際大会出場レベル選手が感じる心理的な問題として、「他者からの期待」が大きいことが挙げられ、声援は力になる反面、プレッシャーにもなるという本事業における研究結果に対し、松本コーチも「これは1番大きいと思います。パラの場合は選手と観客との距離が近く誰もが声を掛けやすい状態で、余計に期待がかかってくるのではないかなと思いますね。『東京パラリンピックで金メダル獲ってね!』と言われると、それだけでも選手にとってプレッシャーになりますし、負担になってくる可能性はすごくあるかなと思います。あと、メディアに(本人の意図とは)違う表現で捉えられてしまうような記事が出ることなども、選手にとっては負担になってくると思います」と感じていました。
会場の来場者の様子
最後に松本コーチは「(車いすテニスの)海外遠征にフィジカルトレーナーや監督、コーチは帯同するんですけど、メンタルコーチの帯同というのはこの車いすの世界で見たことが無い。かなり大事な部分ではないのかなと個人として思いますし、現場の中での感覚というのは、ただのカウンセリングだけだと見えないと思いますので、現場に帯同してくれるような方々がいたら我々はかなり助かるんじゃないかなと思います」と現場での心理的サポートの充実を願い、これを受けて實宝氏は「我々としても現場を知らずにカウンセリングだけしていても仕方がないというのはある。現場に出られるコーチと連携しつつ、選手が気持ちよくプレー出来るような環境作りが必要」と今後の展望に言及し、締めくくりました。
女性アスリート心理サポートカフェの今後の開催情報は当サイトにて順次ご案内いたします。
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