ラグビーの魅力、怖さ、凄みが凝縮されたロスタイムのラストワンプレーでした。18―12で6点リード。大阪体育大学は敵陣で関西大学の連続攻撃を何度も食い止めます。しかし反則を重ね、モールからゴール右隅にトライを許し、18―17。角度のない難しい位置から関大スタンドオフが劇的なゴールキックを決めました。19―18。ノーサイド。12月14日(土)、天理親里球技場で行われた関西大学ラグビーリーグ入替戦では、大阪体育大学(Bリーグ1位)は関西大学(Aリーグ8位)に18―19で敗れ、2019年シーズン以来6年ぶりとなる来季のAリーグ昇格は果たせませんでした。
◆0-15からの暗転
試合は、前半9分、ラインアウト後のモールから連続攻撃し、最後はシオネ・マウ選手(体育学部4年、高知中央高校)が抜け出して先制トライ(ゴール)。ブレイクダウン(密集)で優位に立ち、ディフェンスでよく前に出て、攻撃的なタックルも決まり、前半14分にモールからソナタネ・コロ選手(体育学部2年、青森山田高校)がトライ。30分にはスタンドオフの小野田武流選手(体育学部2年、常翔学園高校)がPGを決め、前半を15―0で折り返しました。
しかし、後半は8分に関大がトライ。大体大も32分にPGを決めましたが、39分、関大がトライ(ゴール)を決めて6点差。そして5分間のロスタイムに、運命のラストワンプレーを迎えます。楕円級がゴールポスト間を飛び去り、関大のゴール成功を告げる旗が2本上がると、大体大の選手はその場に崩れ落ちました。
◆主将「誇りに思う」
試合後の記者会見。堀田凌永主将(体育学部4年、京都成章高校)は声を詰まらせながらも「ラストワンプレーで自分たちの甘さが出たが、(Aリーグ校相手に)勝ちを知らないチームが、ここまでやったことを誇りに思う。来年はこの景色を知っている1、2、3年生と新入生が必ずやり返してくれる」と言い切りました。
大体大は入替戦で、昨年は同志社大学に21―62、2年前は摂南大学に13―45、3年前は関西学院大学に17―48と大敗しました。なぜ今年、ロスタイムまでAリーグを追い詰めることができたのか。今年2月に就任した長崎正巳監督は「部全体の大改革」を挙げます。
◆新監督の「大改革」
長崎氏は大体大ではCTB。関西大学リーグで優勝し、関西ベスト15にも選ばれました。マツダではCTB、フルバック。31歳までプレーし、西日本社会人リーグで優勝、九州代表にも選ばれました。33歳だった1997年、大体大に職員として復帰し、2006年までコーチを務めました。その後はほぼ仕事に専念し、大学の事務局トップの事務局長に昇進しましたが、昨年7月、事務局長職を辞して約17年ぶりにラグビー部に本格復帰し、GMに就任しました。今年2月から監督を兼任しています。
「冒険ですよ。ラグビー部を何とかしたかった」。ラグビー部復帰のわけを、長崎監督はそう振り返ります。
◆眠れるヘラクレス
大体大ラグビー部は「ヘラクレス軍団」の愛称で、かつては、名将・坂田好弘元監督のもと2006年には全国大学選手権で4強に進みました。しかし、近年は低迷。2014年の入替戦で敗れ、翌年Bリーグに降格。その後、Aリーグに復帰しましたが、2019年、Aリーグで最下位となり、入替戦で敗れてBリーグに降格しました。2020年はBリーグで優勝しましたが、コロナ禍のため入替戦が実施されず、2021年から入替戦で3連敗しています。
◆学修・生活面を改革
「大改革」はグラウンドでの練習だけではなく、学修面、生活面にも及びました。学修面は1対1で選手と面談し、授業により真剣に取り組めるよう話し合いました。学習支援室などの支援も受けました。その結果、学習サポートが受けられるフリースペースのラーニングコモンズに、就活の勉強をする4年生や授業の課題などに取り組む下級生ら多くの部員が集まるようになりました。生活面は寮でのタイムスケジュールの管理の仕方など細かい点まで学生と話し、規律も定めました。長崎監督は「心変われば体も変わる。学修や生活での態度が変わると、練習にも出る。ミスをした場合になぜ起きたのかどう修正するか、きっちり考えるようになった」と言います。
◆質2倍量2倍の練習
練習面は、質・量とも昨年の2倍以上にした。
GMになった昨年7月、戦うベースとなるフィジカルがまったく整っていないと感じました。昨年は入替戦出場が大前提なので、この時点からのベース作りでは間に合わず、戦術的な練習を重視しましたが、その反省から春から体力強化に努め、食事にも気を配りました。
5月の近畿大学との練習試合では、Aリーグ勢を相手にブレイクダウン(密集、接点)で圧力をかけられると、コンテスト(ボールの争奪)で防戦一方になりました。Bリーグ同士の試合で優位に立ててしまう甘さは、過去の入替戦でも出ています。ブレイクダウンでの強度の弱さという課題が明確になり、すべての練習に質量、強度を上げ、走り込み、ウェイトトレーニングなどで身体を鍛えました。また、元ヤマハ発動機の伊藤雄大氏を招き、FWのセットプレーとブレイクダウンでの強化に努めました。
◆体力強化でけが人減少
フィジカル強化の成果で、試合でけがをする選手が格段に減りました。昨年、一昨年は1試合で5、6人けが人は出ることも珍しくなかったといいますが、けが人の減少でリザーブ陣が充実し、戦術的な交代が自在にできるようになったことも大きな成果となりました。
また、昨年4月に就任した和田哲元ヘッドコーチの学生と情熱をぶつけ合う熱い指導もチームを変えました。
◆PDCAサイクルを部に導入
これらの改革について、長崎監督は、事務局長としてマネジメントしていた経験が参考になったといいます。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のPDCAサイクルをチームの方針や計画策定に活かしました。その結果、この日の試合では、セットプレー、ブレイクダウンで相手ボールを何度も奪いました。最後に逆転されたとはいえ、走り負けて体力を使い果たすこともありませんでした。
◆関大主将「体大の思いを肌で感じた」
ラグビーの魅力を存分に伝えた手に汗握る一戦は、大体大の成長を証明しました。関大の石川海翔主将は記者会見で「体大の執念のタックル、セットプレーでのプレッシャーに、体大のこの1年間の思いを肌で感じた。体大の後輩は4回生がつないできた思いを引き継いでいくのだと思う」と語りました。
◆「高い土台を築けた」
長崎監督は「ラグビー部全員がこの1年間耐え、しっかりしたパフォーマンスを見せたことを誇りに思う。努力すれば報われることを勝利で体験してほしかったが、堀田主将を中心に高い土台を築いてくれた。来年はこれに上積みしていけば、必ず」
ラグビー部は間違いなく生まれ変わりました。
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