スポーツ現場での暴力・暴言など「スポーツ・ハラスメント」(スポハラ)の根絶を目指す「NO!スポハラ」活動が日本のスポーツ界を挙げて、2023年度に展開されています。3月17日(日)には「NO!スポハラ」サミット2024が東京都新宿区のJAPAN SPORT OLYMPIC SQUAREで行われました。体育学部の土屋裕睦教授(スポーツ心理学)がパネルディスカッションの進行などを担うファシリテーターを務め、昨夏の甲子園大会で「エンジョイ・ベースボール」を掲げて全国優勝した慶応義塾高校野球部の森林貴彦監督らと、ハラスメントのないスポーツの実現に向けて語り合いました。
土屋教授は日本スポーツ心理学会理事長。公認心理師・スポーツメンタルトレーニング上級指導士として日本代表選手やプロスポーツチームの心理支援を実践しているほか、体罰などとは無縁なグッドコーチの育成に取り組み、「NO!スポハラ」活動の実行委員会委員を務めています。
サミットは日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会など国内の主要スポーツ6団体が主催し、対面で約80人、オンラインで約560人のスポーツ指導者らが参加。オープニングセッションでは、森岡裕策日本スポーツ協会専務理事があいさつし、室伏広治スポーツ庁長官からビデオメッセージを寄せました。
サミットは、冒頭に森林監督が「『スポハラ』の無い指導でプレーヤーの主体性を育む」と題して基調講演をしました。
森林監督は、「エンジョイ・ベースボール」は「楽しい野球」ではなく、「より高いレベルの野球を愉しもう!」という趣旨であり、地道な練習の積み重ねや試行錯誤、切磋琢磨、さらにはけがや故障などのプロセスも含めて楽しむKEIO野球の神髄であるとし、「うまくなっていく、強くなっていく自分たちを感じながら楽しむこと」と説明しました。
そのうえで、「エンジョイ・ベースボール」を貫くことで、勝利至上主義や上位下達、思考停止などの古い体質・価値観と闘って風穴を開けたいと思っていて、「これまでの高校野球やスポーツは『勝ち』を追求していたが、これからは『価値』を追求するべきだ。指導者はその価値とは何かを考え言語化して選手、保護者に伝えてほしい」と語りました。
また、慶応幼稚舎(小学)で教諭を務めている経験から、「野球部員を子どもとは思えず、大人扱いしている」と話しました。
さらに、野球は1球1球がセットプレーであり、競技の特性として15秒に1回、選手が監督の顔を見るスポーツだとし、「野球は考えない選手を大量生産していないか」と危惧。慶応でも試合でサインは出すが、選手がベンチに白紙委任するのではなく、サインを見たら「ですよね」と意味を考える選手になってほしいと話しました。
続いてパネルディスカッションに移り、土屋教授がファシリテーターを務め、森林監督のほか、柔道金メダリストで「NO!スポハラ」実行委員の谷本歩実さん、パラ・パワーリフティングの森﨑可林さん、「NO!スポハラ」活動保護者向けワークショップ参加者の篠田ゆりさんが参加しました。
土屋教授は森林監督に「事前アンケートでは、『エンジョイだけでなく厳しい指導も必要で、少しぐらいの暴力的な指導がないと強くならない』という意見があった。指導とスポハラの境目は」と質問しました。森林監督は「怒ると叱るには違いがある。怒るのは指導者が怒りをマネジメントできずに選手にぶつけることで、これはなくすべきだが、叱る、指導する、ただすは必要で避けて通れない。信頼関係がある中で、叱ること、注意することを指導者はためらってはいけない」と答えました。さらに土屋教授が「もし私が選手で、野球ばかりして授業中に寝ていたら、どうするか」と尋ね、森林監督が「何がいけないことなのか、相手に答えさせたいので質問する。選手はやってはいけないことは分かっている。自ら答えさせることで『分かってんじゃん』というかたちにしたい」と答えました。土屋教授は「『エンジョイは慶応だからできた』などというアンチの声も聞くのであえて質問したが、『よい指導者はよい質問をする』というコーチデベロッパー(コーチ育成者)での指導の原則通り」と納得していました。
この後、それぞれの参加者が選手、保護者、オリンピアンなどの立場から森林監督に質問をしたほか、「NO!スポハラ」を実現するためのアイデア、取り組みについて意見が出されました。
また、パネルディスカッション終了後、主催6団体(日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会、日本パラスポーツ協会、日本中学校体育連盟、全国高等学校体育連盟、大学スポーツ協会)が「スポーツ・インテグリティ(高潔)の確保に関する協力覚書」にサインしました。
終了後、土屋教授は、「大阪体育大学はグッドコーチ養成など先進的な取り組みを行っているので、今後もスポハラとは無縁な環境をさらに推進するために、今日の内容を学生たちに伝えていきたい」と話していました。
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