大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」 第16回「授業に集中できない!努力が足りない?」

筆者:土田幸男(教育学部准教授)

1.授業に集中できない時、何が起きている?
授業を受けていても、どうも集中できない。集中していたつもりが、気が付くと全く関係のないことを考えている。例えば、今日の晩ご飯なんだろうな?など目の前の授業とは全く関係のないことをついつい考えてしまう。こういったことを経験したことのない人はおそらくいないでしょう。誰にでもあることではありますが、こういったことが極端に多いと、それはそれで問題かもしれません。
授業中にボーっとしていると先生に怒られるかもしれません。あなたは不真面目だ、しっかり集中しなさい、と。こう言われると自分の努力不足が原因と考えてしまいがちです。こういった目の前のやるべき事ではない別の事柄について思考が飛んでしまうことを心理学ではマインドワンダリングといいます。日本語だと課題無関連思考ともいいます。文字通り、やるべき課題と関連のないことをついつい考えてしまう現象です。こうした現象、誰にでも起こることではありますが、起きやすさの個人差があることが知られています。

2.ワーキングメモリ容量の個人差
ワーキングメモリとは何かを行うための一時的な記憶のことを言います。例えば電話をかける時、初めてかける相手なら電話番号を一時的に頭の中で記憶して、その数字をタップするかと思います。このような時の一時的な記憶がワーキングメモリです。ワーキングメモリには容量があって、それには個人差があることが知られています。簡単に多くのことを記憶できる人から、覚えることがなかなか難しい不得手な人もいます。こうしたワーキングメモリ容量の個人差とマインドワンダリングには関係があることが知られています。
ワーキングメモリ容量が低い人は、高い人よりマインドワンダリングが多いことが報告されています。特に、課題が難しい時にそうしたことが起こりやすいといいます。つまり、ワーキングメモリ容量が低い人は、難しい授業を聞いていると、授業とは関係のないことに気がそれてしまいやすいということです。単に努力不足で不注意が生じている、というのではないわけです。

3.教師として必要な教養
授業中、ボーっとしている生徒を教師が叱るのは簡単です。でも、叱れば直る、とは限りません。ボーっとするメカニズムについて理解しておく必要があります。元々、ワーキングメモリ容量が低い生徒だと理解していれば、教え方にも工夫する余地がでてきます。そもそも生徒たちにとって難しすぎる内容でなかったか、教え方が悪くなかったか、こうした考慮もできます。もちろん、実際には努力不足とボーっとしやすい認知特性の区別というのは難しいわけです。個人の特性とか授業の内容とは全く別の問題がある場合だってあるでしょう。ただ、教師になる人間は、こうした認知のメカニズムを知っておくことで、目の前の児童生徒を理解する選択肢を増やしておく必要があるでしょう。

【参考文献】
齊藤智 (2011). 注意とワーキングメモリ 原田悦子・篠原一光(編)注意と安全(pp. 61–84)北大路書房

キーワード|不注意  マイドワンダリング  ワーキングメモリ

土田幸男准教授
土田幸男(教育学部准教授)
専門は教育心理学。ワーキングメモリの個人差について脳波や認知神経科学的検査を用いた基礎的な研究、公認心理師として心理アセスメントや特別支援教育など臨床面を重視した研究を行っている。

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